政策委員会の主催により、5月25日に「検査済証のない建築物の流通促進に関するセミナー」を開催しましたので、下記に概要を紹介いたします。
【当社のご紹介】
本日は、検査済証の無い物件の有効活用法等についてお話をいたします。
まず当社についての説明ですが、平成18年4月に設立され今年で10年経ちます。指定確認検査機関として国土交通省関東地方整備局長の指定で15番目にできた会社で、登録住宅性能評価機関、CASBEE評価認証機関であり、最近ではLEED認証サポート、省エネ届出サポート等様々な事業を行っています。確認検査機関ですので、コンプライアンスを中心に建築物の審査・検査を通じて建築物に関する評価を行っています。お客様からは「困ったらJ、何とかしてくれるJ」と評価をいただいています。
確認検査の実績としては、渋谷Q-FRONTの用途変更や浅草ドン・キホーテ、代官山TSUTAYA等の確認検査を行っています。
【検査済証の無い建築物について】
検査済証の無い建築物は全国にどの程度あるのでしょうか。昭和37年から平成25年までに新設建築物数は5,158万棟、総延床面積は37,423km2です。そして、戸建住宅が全体の85%を占めています。
このうち、検査済証の無い建築物は3,743万棟、残存数で2,144万棟と推測されます(資料1参照)。検査済証の平均取得率が34%であることがこの背景です。昭和60年から平成11年には同取得率は向上していますが、特定行政庁の話では昭和60年以前は10%程度だったそうです。平成11年に確認検査業務が民間に解放された際に中間検査ができたこと、住宅金融支援機構等の融資条件で検査済証が必須になったことで検査済証取得率は格段に向上しました。世の中のコンプライアンスの重要性が向上したことが影響しています。
(資料1)
【ガイドラインと検査内容】
平成26年7月、国土交通省は「検査済証の無い建築物に係る建築基準法適合性調査のためのガイドライン」を策定し公表しました。このガイドラインは検査済証が無いという理由から増築等の手続きに進めず、既存建築物の有効活用を阻害するケースを回避するため建築物の法適合性状況を調査する一方法として取りまとめられたものです。
現在、建築基準法適合状況調査の届出を出した指定確認検査機関は28ありますが、当社は2番目に登録させていただいたということもあり、よくご相談をいただいています。
では、具体的にどのような調査を行うのでしょうか。 「事前調査」では、建築所在地の特定行政庁の調査方針を確認します。これは特定行政庁ごとに全く異なりますので確認が必要です。図面が無い場合には復元図書を作成しなければなりません。
「図上審査」では実際に確認審査と同じような審査を行います。「現地調査」は耐震診断と同等の調査を行い適合性の判定を行います。また、建築確認の完了検査と同等の検査を実施します。実際には建築当時の建築基準法の適合性との確認、現行建築基準法との適合性の確認をします。そして、構造耐震指標等の評価を行います。
当社の検査実施内容としては資料2のようになります。 事前相談では、所在地の特定行政庁の調査方針を確認する際に、実際に耐震診断まで必要か、法適合性のみでできるかを含めて色々確認しています。その上で、確認と同じような設計図書が無い場合は設計事務所をご紹介して図面作成のサポート等を行っています。そして先述の流れで、各審査を行います。復元図書を鑑み、図書の補正をサポートします。法に適合しなければ、先の手続きに進めないからです。最終的に報告書を作成するだけで無く、是正の必要性の有無や是正方法等をコメントして付与しています。
今一番問題なのは、「耐震診断」です。設計図書が無い場合、実測図等、診断に必要な資料を作成、さらに復元図書を作成した際に構造計算も行ってもらいますが、耐震診断の場合は改めて当社でも再計算します。これに2~3週間かかります。現地調査で1週間かけて使用状況、建築物の環境調査を行い、最終的には約3か月位要しています。
当社の法適合性調査の受託例では、木造の場合構造調査はしたものの、耐震診断までは行わなくても良かった事例もあります。
(資料2)
【検査の課題と対処法】
法適合性調査の課題としては、以下の点が挙げられます(資料3参照)。
第一に、調査期間が最大3か月必要なことです。設計図書がない場合は復元に1か月必要ですし、耐震診断実施にも3か月かかります。
第二に、調査費用が高い。規模にもよりますが、設計図書の復元費用や耐震診断費用が高額になりがちです。
第三に、行政ごとに求める審査や検査内容が異なります。都区部や政令指定都市では厳しく、特に東京都区部の地盤が緩い地域では実際に杭を打った本数まで調べてくれなどと耐震診断を超えた要求をしてくるケースもあるようです。これは、確認審査が減少しているので、リスクを負える行政庁が減少しているということも関係していると思われます。
一方、地方はそれほど厳しくありませんが、建築主事が減少してきているので、今後は対応が変わっていく可能性があると思います。 ガイドラインはあくまでも用途変更や増築、改築などの法適合建築物への変更を行う上での行政手続きを行うための位置付けです。検査済証の無い建築物を現状維持した状態で融資、不動産取引、投資事業化を考える場合、ガイドライン以外の手法が選択でき、納期・費用の短縮が可能になるということを皆様に御理解いただければと思います。
特に融資といった場合、コンプライアンスが維持されているかが一番の問題になりますので、ただ単純に購入するために融資を受けたいということであれば、意匠的な遵法性を確認すればいいことになります。
投資事業化でも違った方法(エンジニアリングレポート等)が考えられます。調査目的により対処法は異なります。
(資料3)
【最後に】
検査済証の無い建築物と現行法との関係について考えた際、建築基準法は緩和・厳格化の2つの方向で改正が行われていることにご注目ください。実際に建築時に適法であっても現行法では厳しくなっている場合があります。例えば地盤沈下への対応などです。また逆に、建築時に違法であっても現行法だと適法になっている場合もあります。ですから、違法増築を行っている場合でもコンプライアンスが維持されているなど物件ごとに確認することで、リスク増減の可能性もあります。
我々は、この取組みを通じて市場の既存建築物の有効活用や取引の活性化を支援しています。既存建築物を全て用途変更するわけでは無いと思います。実際には、取得後しばらく保有してどれだけ儲かるか確認して潰してしまうというのであれば、エンジニアリングレポートで済む場合もあります。また、既存物件の内装だけを変えるのであれば、確認等は必要ありません。まず、我々にご相談いただき、どんな内容をやりたいのかお話しいただきたいと思います。我々は難しいと思われることでも挑戦いたします。(文責 編集部)