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改正宅建業法の施行に向けて

 昨年の第190回国会において、既存住宅の流通市場を活性化し安全な取引環境の整備を図るため、建物状況調査(インスペクション)の活用等を内容とする宅地建物取引業法の一部を改正する法律が成立し、平成28年6月3日に公布されました。
 本法律において、建物状況調査(インスペクション)関係の規定について公布の日から2年以内、それ以外の規定について公布の日から1年以内の政令において定める日から施行することとしており、昨年末の政令制定により、下記の通り施行期日が定められました。

 具体的には、以下の通り、二段階に分けて施行されることとなっております。
(A)建物状況調査(インスペクション)に関する規定の施行期日は、平成30年4月1日とされました。今般の法改正により、既存建物の取引における情報提供の充実を図るため、宅地建物取引業者に対し、以下の事項が義務付けられました。
① 媒介契約において建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面の交付
② 買主等に対して建物状況調査の結果の概要等を重要事項として説明
③ 売買等の契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面の交付
(B)さらに、(A)以外の以下の規定の施行期日が平成29年4月1日とされました。
① 宅地建物取引業の業務の適正化及び効率化
媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあったときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならないものとすること。
② 営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者を除外
③ 従業者への体系的な研修の実施についての業界団体に対する努力義務

 これまで、国土交通省の社会資本整備審議会不動産部会において、これらの改正事項の施行に向けた運用面の議論が行われて来ました。昨年の11月9日、12月26日に詳細事項の議論が行われておりますので、皆さんもどうぞご確認下さい。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s203_hudousan01.html

 昨年12月26日の社会資本整備審議会産業分科会不動産部会において、施行に向けた具体的なルールづくりに関する検討が進められた後に、今年3月末には、改正法における建物状況調査の実施方法について、例えば、建物状況調査の対象部位、建物状況調査の実施主体、建物状況調査を実施する者のあっせん、建物状況調査の結果の概要に関する重要事項説明、「書類の保存の状況」に関する重要事項説明等について省令改正・施行通知が出されております。
宅地建物取引業法施行規則の一部を改正する省令(平成29年省令第13号)において、宅地建物取引業法の一部を改正する法律(平成28年法律第56号)の施行に伴う改正事項、具体的には、建物状況調査の詳細、建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の具体の書類等について規定されております。下記のウェブサイトより、具体的な規定を確認できますので、どうぞご確認下さい。
http://www.mlit.go.jp/common/001179089.pdf

 また、本年4月1日から、媒介契約の依頼者に対する報告義務の創設(第34条の2新第8項)、宅建業者に対する重要事項説明の簡素化(第35条新第6項及び新第7項)、従業者名簿の記載事項の変更(第48条第3項)、営業保証金等による弁済を受けることができる者の限定(第27条第64条の8)、宅建業者の団体による研修の実施(第64条の3第75条の2)が施行されています。新しい施行事項の確認、運用の詳細につきましては、間もなく国土交通省より配布される予定の改正宅建業法Q&Aにてご確認下さい。

 今回は、このうち主な改正内容、重要なポイントに絞り、解説を行います。

1.改正法における建物状況調査の実施方法について
(1)建物状況調査の対象部位及び方法
 そもそも建物状況調査(インスペクション)は、売主・買主が安心して建物の取引の判断が行えるよう、建物の構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分について、その状況を客観的に調査するものです。このため、建物の基本的な品質・性能に係る部位の状況を調査することが基本となります。このような建物の基本的な品質・性能に係る部位の調査については、平成25年に国土交通省が「既存住宅インスペクション・ガイドライン」として調査方法等に関する指針を定めているところで、改正法に基づく建物状況調査の実施方法についても、同ガイドラインに沿ったものとすることが適当であるとされました。
そして同時に、既存住宅の安心な取引環境を整備する観点からは、物件の引渡し後一定期間内に瑕疵が発見された場合について必要な補修が行えるよう、保険への加入を促進することが重要であり、建物状況調査を実施した場合にはその結果を活用して既存住宅売買瑕疵保険に加入することができる制度とすることが適当であるとしています。

 したがいまして、改正法に基づく建物状況調査の対象部位及び方法は、国土交通省の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を踏まえて、既存住宅売買瑕疵保険に加入する際に行われる現場検査の対象部位(基礎、壁、柱など)及び方法と同様のものとすることが適当とされているわけです。この基本的な考え方、対象範囲についてご理解をいただく必要があるかと思います。

(2)建物状況調査の実施主体
 建物状況調査の結果は、売主・買主の双方にとって既存住宅の取引を行う上での重要な判断材料になるものでありますので、建物状況調査は客観的に適正に行われることが確保されなければなりません。このため、建物状況調査の実施主体として、① 建物の設計や調査に関する専門知識を有していること、② 適正な業務執行を担保するための指導・監督等の仕組みが制度上確保されていること、③ 円滑に調査が行われるために必要な人員が確保されることが必要であるとされました。

 平成30年4月より施行されます建物状況調査の実施主体につきましては、建物状況調査が客観的かつ適正に行われるよう、調査に係る一定の講習を修了した建築士としています。
 具体的には、以下の新省令の規定です。
 省令第十五条の八 法第三十四条の二第一項第四号の国土交通省令で定める者は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 建築士法(昭和二十五年法律第二百二号)第二条第一項に規定する建築士
二 国土交通大臣が定める講習を修了した者
2 前項に規定する者は、建物状況調査を実施するときは、国土交通大臣が定める基準に従って行うものとする。)
 なお、建築士以外の主体による建物状況調査の実施を可能とする場合の枠組み等について、引き続き検討を継続することとされています。

 現時点では、建物状況調査の実施主体としては建築士を基本として、まずは平成30年春の施行に当たり、調査に係る一定の講習を修了した建築士とすることが適当であるとされました。なお、建築士は、国土交通大臣の免許を受けて建築物の設計、工事監理等の業務を行う者であり、建築物に関する調査について建築士法に基づく監督・処分等が可能です。現在、約18,000人の建築士が、国土交通省の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づくインスペクションの講習を受け、インスペクターとして登録されています。一方、他の主体であっても、上記のような要件を満たして建物状況調査を客観的に適正に行える状況になれば実施主体となることは可能と考えられることから、安心な取引環境の整備を一層進める観点から、全国における建物状況調査の実施状況等を適切に検証しつつ、引き続き、建築士以外の主体による建物状況調査の実施を可能とする場合の枠組み等について、検討を継続するべきであるとの報告書がまとめられました。ここは是非注目いただきながら、他方で、建物状況調査の実施結果に関する客観性を確保する観点から、上記の講習を修了した建築士であっても、自らが取引の媒介を行う場合など当該取引に利害関係がある場合にあっては、売主及び買主の同意がある場合を除いて、建物状況調査の実施主体となるのは適当でないとされていますので、ご注意下さい。

2.建物状況調査等に関連する宅地建物取引業者の業務について
(1)建物状況調査を実施する者のあっせん
 改正法においては、建物状況調査を活用した安心な取引が実現されるよう、宅地建物取引業者の業務の一環として、媒介契約において「建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項」を記載することが定められました。このような宅地建物取引業者によるあっせんは、売主等からのあっせんの希望を受けて複数の業者を順次あっせんする場合など、実務的には様々なケースが想定されるかと思います。このため、あっせん先の業者名等が変わるたびにその都度媒介契約を変更することになるのは適切でないと考えられることから、国土交通大臣が定める標準的な媒介契約書面である標準媒介契約約款においては、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項として「あっせんの有無」についてのみ記載することとするのが適当であるとされました。

 なお、改正法に基づく「あっせん」は、建物状況調査を実施している業者に関する単なる情報提供ではなく、売主又は買主と業者の間で建物状況調査の実施に向けた具体的なやりとりが行われるように手配することが求められます。

(2)建物状況調査の結果の概要に関する重要事項説明
① 重要事項説明の内容
 建物状況調査の結果の概要に関する重要事項説明は、消費者利益の保護と既存住宅の取引の安全確保の観点から、既存住宅の取引を行おうとする買主等が、建物の現況を十分理解した上で意思決定できるようにするために行うものです。このため、重要事項として説明する建物状況調査の結果の概要は、客観的に適正な内容のものであることが重要であり、国土交通省の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づく既存住宅現況検査結果報告書の検査結果の概要と同様のものとするべきであるとされています。同時に、宅地建物取引士が重要事項説明に用いる建物状況調査の結果の概要の書面については、調査を実施した者が責任を持って作成することになります。

② 重要事項説明の対象となる建物状況調査の範囲
 建物状況調査の結果は、既存住宅を取引する上での重要な判断材料となるものであり、重要事項として説明する内容は、取引時点での建物の現況と大きく乖離しないことが求められます。既存住宅の安心な取引環境を整備する観点から、建物状況調査の結果を活用して既存住宅売買瑕疵保険への加入を促進する必要がありますが、既存住宅売買瑕疵保険においては、建物への経年変化による影響等を考慮し、現場検査の実施から1年以内の住宅を保険引受けの対象としているところです。このため、重要事項説明の対象となる建物状況調査については、調査を実施してから1年を経過していないものを対象とすることが適当であるとされました。また、調査を実施してから1年を経過していない建物状況調査が複数ある場合には、取引物件の現況との乖離が最も小さいと考えられる直近の建物状況調査を重要事項説明の対象とするべきであるとされました。ただし、1年以内の直近の建物状況調査以外に、劣化事象が確認されている場合など、取引の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる建物状況調査を別途認識している際には、消費者の利益等を考慮し、宅地建物取引業法第47条に違反することのないよう、当該建物状況調査についても買主等に説明することが適当であると考えられます。また、建物状況調査を実施してから1年を経過する前に大規模な自然災害が発生した場合など、重要事項説明時点での建物の現況が建物状況調査を実施した時点と異なる可能性がある場合であっても、自然災害等による建物への影響の有無及びその程度について具体的に判断することは困難であること、自然災害等が発生する以前の建物状況調査において劣化事象等が確認されていた場合などには、その結果が取引判断の参考になること等から、当該建物状況調査についても重要事項説明の対象とすることが適当であるとしています。

 具体的には、省令第十六条の二の二において、建物状況調査に関する重要事項説明においては、建物状況調査実施後1年を経過しないものについて、重要事項説明の対象としています。

(3)「書類の保存の状況」に関する重要事項説明
① 重要事項説明の対象となる保存書類の範囲
 建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存状況に関する重要事項説明は、既存住宅の購入判断等に大きな影響を与えると考えられる一定の書類の保存の有無等について、買主等が事前に把握した上で取引に関する意思決定を行えるよう、新たに法に規定されたものです。既存住宅については、満たすべき建築基準への適合性が不明確である場合には住宅ローンの借入や既存住宅売買瑕疵保険の付保等が円滑になされない可能性があるほか、居住開始後に適切に既存住宅のリフォームやメンテナンスを行うためには、当該既存住宅の設計図書や新築時以降に行われた調査点検に関する書類などが必要となります。こうしたことから、建物の建築及び維持保全の状況に関し、重要事項説明の対象として保存の有無を明らかにする書類は、建築基準法令に適合していることを証明する書類、新耐震基準への適合性を証明する書類、新築時及び増改築時に作成された設計図書類、新築時以降に行われた調査点検に関する実施報告書類とするべきであるとされました。なお、区分所有建物のマンション管理組合など、売主以外の者がこれらの書類を保有している場合には、書類を実際に保有している者についても説明するべきであるとしています。

 具体的な省令改正では、「書類の保存の状況」に関する重要事項説明については、建物の建築及び維持保全の状況に関し、重要事項説明の対象として保存の有無を明らかにする書類は、次のものとされています(省令第十六条の二の三)。
(a)建築基準法令に適合していることを証明する書類、(b)新耐震基準への適合性を証明する書類、(c)新築時及び増改築時に作成された設計図書類、(d)新築時以降に行われた調査点検に関する実施報告書類

 さらに、標準媒介契約約款、重要事項説明書のモデル書式の改正も行われておりますので、改正省令をご確認下さい。

② 貸借の場合における取り扱い
 今般の法改正は、既存住宅の安心な取引環境を整備し流通を促進することを目的に行われたものであり、こうした観点から、書類の保存状況に係る重要事項説明の規定も整備されたところであります。貸借では、売買に伴う既存住宅の流通とは異なり、借主による住宅ローンの借入やリフォーム等の実施は一般に想定されないところであり、貸借の場合においては、建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存状況についての重要事項説明の対象外とすることが適当であるとされています。

(4)37条書面への「当事者の双方が確認した事項」の記載
 改正法第37条第1項に基づき売買契約等の成立時に契約当事者に交付する書面(以下「37条書面」という。)は、契約を媒介した宅地建物取引業者が当該契約の一定の事項を書面にすることで契約内容を明確にし、契約成立後の紛争を防止することを目的としたものです。今般、建物状況調査に関連して、37条書面に「建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項」を記載することが新たに定められています。構造耐力上主要な部分のひび割れや雨漏りなど、契約成立後のトラブル防止を目的に措置されたものですが、契約当事者が既存住宅の現況について不確かな認識をもとに37条書面に記載することは、かえってトラブルを引き起こす原因となりかねませんので、「当事者の双方が確認した事項」は、原則として、建物状況調査など既存住宅について専門的な第三者による調査が行われ、その「調査結果の概要」を重要事項として宅地建物取引業者が説明した上で契約締結に至った場合の当該「調査結果の概要」とし、これを37条書面に記載することとするべきであるとされました。また、これ以外の場合は、既存住宅の現況について当事者双方がどのような認識に基づいて契約を締結したかが明らかでないため、「当事者の双方が確認した事項」は「無」として37条書面へ記載することが適当であるとされました。ただし、契約当事者の双方が写真等をもとに客観的に既存住宅の状況を確認し、その内容を価格交渉や瑕疵担保の免責に反映した場合など、既存住宅の状況が実態的に明らかに確認されるものであり、かつ、それが法的にも契約の内容を構成していると考えられる特別な場合には、当該事項を37条書面に記載することは差し支えないと考えられます。

3.さらに、2.以外の以下の規定の施行期日が平成29年4月1日とされています。
① 宅地建物取引業の業務の適正化及び効率化
媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあったときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならないものとすること。
② 営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者を除外
③ 従業者への体系的な研修の実施についての業界団体に対する努力義務

 このうち、①の宅地建物取引業の業務の適正化及び効率化については、不動産取引における長年の課題でもあります。取引物件に係る売買又は交換の申込みに関する報告は、宅地建物取引の透明性の向上を図る観点から、宅地建物取引業者による伝達を確実なものとし、媒介依頼者が適時かつ適切に物件の取引状況を把握できるようにすることを目的としたものです。このような目的を踏まえ、当該報告が実務上も適切に行われるようにするため、国土交通大臣が定める標準媒介契約約款を改正し、物件の売買又は交換の申込みがあったときは、媒介依頼者に対して遅滞なく報告することを宅地建物取引業者の義務として追加するのが適当であるとされています。なお、改正法に基づく「報告」は、買受申込書など、売買等の希望が明確に示された文書による申込みがあった場合に行うものとすることが適当であると考えられます。

 物件の売主が仲介業者に売却を依頼する際は、売主と仲介業者との間で売却を依頼する契約(媒介契約)を結びます。媒介契約には、一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の3種類があり、特に専任と専属専任の場合は、一つの仲介業者が売却依頼を受ける形態になります。そしてその一社には、レインズ(指定流通機構)に物件情報を登録し、他の仲介業者にも買主を見つけてもらえるよう情報を公開する義務が課せられています。もちろん、公開された物件は決まってしまうこともありますから、その際は問い合わせしてきた仲介業者に対して、契約済みである旨を伝えることになります。ところが、まだ決まっていないにも関わらず、「契約済み」とか「契約に向けて商談中」などと虚偽の回答を行い、見込み客を見つけて問い合わせしてきた仲介業者への紹介をシャットアウトしてしまう行為が、従来から指摘されてきました。この「囲い込み」行為は、「自社が売却依頼された物件について他社に紹介拒否する行為」であり、宅建業法上のみならず企業経営のコンプライアンス上問題があると言えます。

 売却情報が適時適切に公開されれば、他社の顧客にも情報が行き渡り、現地案内等によって物件を早期に売却することが可能になります。早期の売却は、売主にとってメリットの方が多いのです。売主は何らかの理由があって自宅を売却するわけです。例えば、売却して新居を購入する場合、自宅が売れなければ新居に充てる資金の目途が立ちません。もし、先に新居の購入契約を済ませてしまい、さらに期限内に売却できなければ、売却資金の代わりにローンを組まざるを得なくなるケースもあります。また、住宅ローンが返済できずに売却する方の場合、一刻を争う事態ですから長くなって良い事はひとつもありません。自宅以外の遊休資産の売主や、資金的に余裕のある方であれば、検討客が現れるまで時間を掛けてじっくり売却していくことも考えられますが、その場合でも、同じ物件情報が長く残っていると「いつまでも売れないのには何か問題があるのでは」とのマイナスイメージが付きやすくなります。情報が新鮮なうちは反響が集まりやすいため、相場の上限で売却できる可能性もあるのです。

 日本のレインズと異なり、売主の利益の実現、購入希望者への情報提供と内覧を早期に進めようとしている米国のMLS(Multiple Listing Service:日本のレインズに相当する全米約900地域で設立・運営されている組織)では、MLS事務所職員が物件囲い込みに関する苦情対応、現地確認を行っており、規則遵守を徹底するガバナンスが確立されています。物件囲い込み(ポケットリスティング)禁止と物件情報登録規則の厳格な運用を周知徹底しており参考になります。例えば、ワシントン州では、売主が不動産事業者と売買代理契約締結後48時間以内に不動産事業者がMLSに当該物件情報を登録しなければならず、その物件の処理状況(購入希望者からの依頼があるか、商談中か、市場に掲載され続けている物件か)を正確に表示しなければならないこととされています。シアトル地域のNWMLS(ノースウェストMLS)では、売主事業者が48時間以内にNWMLSの登録サイトに物件情報を掲載したことを監督するため、不動産エージェントが所属するブローカー会社に監督義務を課し違反が判明した場合罰金制を導入しているほどです。

 また、他の会員により報告がなされることも多く電話やメール等による通報に基づき監視(Policing)を徹底しています。NWMLSは全会員に物件案内用のキーボックスの販売と利用を義務付けており会員同士が物件の反響・問い合わせ状況を共有することができ、物件情報・案内状況がNWMLS会員全員に公開共有されているため、訴訟手続き前の組織内相互監視、苦情処理がキーボックスの利用で可能となっています。これまで会員内の内部通報で規則違反を確認することが多く、書面や電話、面会によって是正命令を行ってきましたが、過去五年間オンラインでNWMLS会員の不動産取引に関する問合せ・通報、NWMLS側から指導・命令ができるTransaction Deskの利用を呼び掛けており、現在75%の会員が登録を行っています。

 これにより、NWMLSの組織運営のコスト削減のみならず、不動産取引規則の是正効果にもつながっています。例えば、2015年度に登録会員にメールで是正指導(不動産物件表示内容の修正・物件囲い込みの中止命令・成約価格の期限内での登録等)を行った件数は29,565件で、是正措置が確認できたのが26,850件(91%の是正率)であったそうです。また、これらの運用ルールの厳格化、規則遵守の徹底は、業界内の指導、研修の充実により、長い年月をかけて取り組まれてきたことが分かっております。

 今回の改正事項である宅地建物取引業の業務の適正化及び効率化、すなわち「媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあったときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならないものとすること」について、この四月から施行されますが、是非とも売主・買主双方の消費者を保護するための本規定の趣旨・目的をご理解いただければと思います。

 その他、営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者を除外すること、従業者への体系的な研修の実施についての業界団体に対する努力義務については、本年四月から既に施行されています。

 昨年の改正宅建業法の施行が円滑に進められ、皆様方のご協力をいただきながら、不動産取引の安全確保、市場の活性化が実現されることを祈っております。
 会員の皆様の日々の業務である媒介契約、重要事項説明、契約締結の書面作成の変更が皆様の営業に大きく影響してくるかと思われますので、改めてのご確認とご対応をお願い致します。

4.改正法施行に当たっての留意点について
 改正法施行に当たっては、建物状況調査等に係る新たな制度の趣旨・内容について広く周知徹底を図るとともに、関係者が改正法の内容を円滑かつ適正に実施できるよう、環境整備を行うことが重要であるとの指摘がされています。このため、国土交通省においては、上記を踏まえた関係省令等の整備を行うとともに、関係する事業者団体等と連携しつつ、改正法の施行に向けて次のような取組を行うよう検討を進めるべきであるとされました。
 今後、以下の作業、公表等が行われるかと思いますので、ご確認、ご活用下さい。
・建物状況調査、既存住宅売買瑕疵保険についてのパンフレット等の作成
・建物状況調査を実施する者の検索システムの構築
・改正法の内容に係るQ&Aの整備 等

 最後に、国土交通省の社会資本整備審議会産業分科会不動産部会においては、これらの改正事項の施行に向けた運用面の議論のほか、増大しつつある空き家等への対応、不動産業における情報化への対応、適正な不動産管理の推進などについて今後も議論が行われていく予定ですので、皆さんもどうぞご確認下さい。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s203_hudousan01.html

 全住協会員の皆様の日々の業務にも大きく影響してくるかと思われますので、改めてのご確認とご対応をお願い致します。